一歩下がって考えてみた-Black tee thinking

50代、海外在住です。日々気づいたことを書き溜めています。

ジョブ型雇用の導入、進まない理由は抵抗する人事部の存在か(2023年4月25日)

近年よく耳にする 「ジョブ型雇用」、日本の大企業に定着すれば人材の流動化が加速度的に進み、いいことづくめのように思えるが、なかなか進捗していない。

そもそも「ジョブ型雇用」とはなにか。簡単に言えば、担当させる職務をあらかじめ決めた上で社員を採用することであり、採用はその「職務」と原則としてひも付きになる仕組みだ。なので、転勤や配置換えがある場合は原則として同じ「職務」の範囲で行われることになる。従来の採用形態であれば、人事異動で全く異なる業務を担当するケースもあったが、そういう配置換えは基本的には発生しなくなる。

基本的には海外の企業はかなりの割合がジョブ型雇用だ。大手企業が新卒を一度に大量採用する場合は企業が適性を見極めて配属するケースもあるようだが、一度配属されてしまうと、その業務を今後のキャリア展開の軸足にすることが基本になるはずだ。

メディアがもてはやしていることもあり、日本でもジョブ型雇用の導入が進んでいるように見えるが、特に大企業への導入は道半ばだ。その理由は煎じ詰めると「人事部の抵抗」ではなかろうか

ジョブ型雇用を行うと、社員の異動や評価、昇進・昇格等を調整する権限の大半が人事部から現場の部署に移ることになる。この権限は人事部の影響力の源泉であり、これらの影響力を行使できるために人事部は日本の大企業において特別な位置づけを占めていた。仮にジョブ型雇用が導入されると、人事部が担当する業務は「給与支払い事務」や「評価結果の取り纏め」等の下請け作業になってしまうので、彼らとしては積極的に推進するインセンティブに乏しい

更に採用や給与額の調整についても、ジョブ型雇用が定着すると現場に移ることになる。配属する部署を予め想定して採用を行うので、採用面談にも現場の部署が関与することが原則になる。また、給与額の決定・調整権限も現場に移るだろう。従来は人事部が詳細に設計した制度の中で、職級や職階等を適用させることで給与を決定してきたが、それらの制度を飛び越えて給与を現場で決定するケースが増えてくるはずだ。つまり人事部が担ってきた機能の大半が現場に移管されてしまうのだ。

しかし、仮に人事部が権限を手放したとしても、ジョブ型雇用が一気に進むとは思えない。日本の大企業では未だに中途採用はマイノリティであり、労働市場も未成熟だ。そうであれば、従来型雇用からジョブ型雇用への切り替えはデジタルに行う必要はなく、暫くはハイブリッドで対応していくことが、良さそうだ。人事部の面々にとっても刺激が少ないのではないか。